今年の2月に児童文学作家の桜井信夫さん(詩集『ハテルマシキナ』が代表作)から感想をきかせてください、といわれて原稿をあずかった。原稿内容は、日本の古代歌謡である『神楽歌』『催馬楽』『梁塵秘抄』のなかから、子どもに伝えたい、と選んだ詩歌の原典をやさしく解説したものだった。前書きには以下のように書かれている。
<日本のとおいむかしの歌で古代歌謡にはさまざまなものがあり、古典文学として今日につたえられています。ところが、そうした歌の曲調は残念ながらよくわかりませんので、現在に演奏されることはありません。また、本になっている古典文学全集などをひらいてみても、子どもでは、それを読みこなして理解することがたいへんです。でも、このままでは、もったいないはなしです。せめて子どもたちにもわかる内容の歌を選びだして、読みやすく、わかりやすく、今の歌におきかえられないものか。そうすれば古典に親しみをもってもらえるし、古典もほこりをかぶらずにすみます。>
“いったいなぜ、児童書版元ではない編書房に?”とびっくりし、いぶかしく思いながらも読んでみた。「すごく面白いじゃないの」。これは本来ならば児童文学専門の出版社で出すべきものだが、どこも沈黙している、というのだ。不思議だ。こんなにすばらしい内容なのに・・・・・・。いろいろな出版社の担当者の目にも触れているはずだ。桜井さんの奥様、中島信子さん(児童文学者)と知り合いなので、詳しく聞いてみると「こういう地味な作品は、どんなにいいものでも、どこも出してくれないの」と寂しそうにおっしゃる。そうか、それならばウチで出版しようか、という気持ちになり、話が進んだ。大人が読んでも十分おもしろい。
日本の古典文学だけれど、今の歌におきかえたすばらしい詩がたくさん入っているので、カットだってふんだんに必要だ。そう考えて、銅版画家の市川曜子さんにお願いしてみると、こころよく引き受けてくださった。市川さんには、以前『戦後名編集者列伝』(櫻井秀勲著)の表紙画を描いていただいている。
考え抜かれた素敵なカット25枚以上ができあがった。カットを描く時間は2ヶ月くらいかかったが、市川さんによると、これでも大急ぎでやった、とのこと。描く前に考える時間のほうが長いのだそうだ。それはそうだ、と思う。単純な、どこにでもあるような絵ではない。さすがに丁寧な仕事をする画家だ、とうなる。とにかく力作ばかり。
ようやく初校が出て現在は校正中。ほんとうに小部数しか出せないのが残念だ。奇跡がおきて売れてくれないかな。これは公共図書館にも小学校や中学校の図書室にもぜひ入れてもらいたい貴重な作品。9月上旬に発売予定。