最近、小社のウエブサイトからときどき注文がくる本がある。それは『
粗い石』(フェルナン・プイヨン著、形文社、3150円)なのだが、これは小社では販売できない。注文者には形文社の電話番号とファックスを案内している。なぜ発行元でもないのに注文がくるか、というと小社の読み物サイトで連載していた“斎藤美奈子&永江
朗の「甘い本 辛い本」 12”で安藤忠雄氏の愛読書として取り上げた本だからだと思う。最近は朝日新聞の読書欄(2006年06月11日掲載)で安藤氏本人が「たいせつな本」として書いておられたので、再び注文が来るようになった。興味のある方はこちらで読める。
http://book.asahi.com/mybook/TKY200606130405.html
2001年に翻訳書が形文社より発行されたが、原著は1964年刊。安藤忠雄氏の愛読書として何度も紹介されるこの本は、幸せな本だと思う。
安藤氏は
「『粗い石』に込められた〈生きることは正しくつくること〉というメッセージは、分業化された現代の建築に痛烈な批判を投げかける。「お前は身を切ってつくっているか」−−時間に追われる日々をすごす現在の私にとっては、何より恐ろしい一冊かもしれない」と書いている。
わたしもこの本が好きだ。生涯手放したくない本のうちの一冊で、夢中になって読んだ覚えがある。安藤氏は『
光の教会』(平松剛著、建築資料研究社)という本で紹介された茨木市の教会堂建築を引き受けたとき、『粗い石』を、読み込んで読み込んで、会堂建築にあたったにちがいない。茨木市の教会堂は常識はずれの安藤氏の斬新なデザインに泣かされた部分があったが、すばらしいできばえの会堂になった。ちなみにアマゾンのサイトの内容紹介より引用すると、『光の教会』とは以下のような本。
建築家安藤忠雄の代表作の1つに、大阪府茨木市の日本基督教団茨木春日丘教会がある。コンクリート打ち放し。直方体の箱のようなシンプルな教会堂。十字架の形をした窓が正面の壁いっぱいにくりぬかれ、そこから太陽の光が内部に差し込む。明るい光とほの暗い室内のつくり出すドラマチックな対照。「光の教会」とよばれるゆえんである。
本書はこのユニークな教会堂がどのようにして構想され、設計、施工されたかを丹念にたどったノンフィクション。
この本もまた、絶対に手放したくない、すばらしい本である。
それにしても、形文社には嫉妬を覚える。こんなに幸せな本を何冊も抱えている。直販しかしていないので、ここの本を買う人は不便だが、知る人ぞ知る、そんな小出版社。一冊一冊を吟味して本を出している。お金もかかっているだろう。だからここの出版社の本は高い。だがけっして古びない本を出している。いつも心にかかる出版社である。