次の新刊の発行がだいぶ遅れそうだ。本来ならばもうすでに原稿をいただいて編集準備に入り、クリスマスには発売する予定だったが、間に合いそうにない。書き下ろしなので、作者の都合に合わせるしかない。今度の新刊の作者である紡さんは漫画家。『ホット・ロード』(暴走族をテーマにしたコミック)や、『瞬きもせず』などのベストセラーがある。いろいろな事情でしばらく作品を描くことから離れていたが、くどき落としてOKをいただいた。それは、小社のようなマイナーな出版社にとっては夢のようなことである。それだけに時間がかかる。彼女にとっては久しぶりの新刊だし、今までのコミック作品とは違い、書き下ろしの実験的なものなので慎重になっているようなのだ。1年も前から打ち合わせをしてきたが、なかなか思うようにはいかないようだ。
紡さんの作品世界はとても繊細だが、ご本人もまた触れると折れてしまいそうなくらいに細くてナイーブで雰囲気のある美しい人だ。しかし、芯はものすごく強くて信念の人。何度か打ち合わせをするうちに絶対的な信頼をおける人だと感じるようになった。なぜ、こんなに小さな出版社で作品を描いてくれる気持ちになったのか。そこには秘密があるのだが、作品を読んで判断していただくしかない。
作者は毎日、それこそ身を削るようにして作品に取り組んでいるらしい。それを考えると申し訳ないような気持ちになる。編集者としての私にできる現在の仕事は、ただじっと待つこと。それしかできることがない。
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懐かしい作家
最近、今はすでに故人となられた山田智彦氏の小説をポツポツと読み返している。この作家とは10年くらい前に一度だけお会いしたことがある。そのときに実に丁寧に教えていただいたことがあった。そのことをなつかしく思い出したのだ。恐怖小説集『蜘蛛の館』や『銀行裏総務』など、純文学ものも経済小説もどちらのジャンルもうまい作家だと思う。お会いしたときに聞いた話で一番印象に残ったのが「忙しくてお風呂に入る暇がない」という言葉。本業の銀行では調査役として活躍し、一方ではよくもこれだけの小説を書いたなあ、と思うほど沢山の面白い作品を残している。2001年に膵臓ガンにより65歳で突然なくなったが、人の二倍以上の仕事をしてエネルギーを使い果たしてしまったのだろうか。近所の有燐堂でこの人のコーナーを探したが講談社文庫の棚に『銀行裏総務』が2冊、ひっそりと入っているだけだった。もう少し並べてほしい。いい作品がたくさんあるのだから。