有限会社 編(あむ)書房
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2月7日 営業ってどうしたらいいのかな

 『イロハからわかる編集者入門』の校正も終了して、さあ、次は営業だ。しかし、今回は図書館専門の取次・図書館流通センター(TRC)からはほんのちょっぴりしか注文をいただいていない。つまり図書館には支持されない本である、ということか。そんなことは絶対にないはず。図書館にも買ってほしい本なのに。さあ、困ったぞ。これは編集者読本、編集者ノウハウ本だ。小社としては大量に売りたい、いや、読んでいただきたい。編集志望の若い人にはできれば差し上げたいくらいの思い入れがある。「面白いし、読みやすいし、実用書だから、これは売れるぞ!」と勝手に思い込んでいた、ノー天気の自分にあきれる。紀伊國屋書店、東京堂書店、アクセス、八木書店、など編書房の本をたくさん置いてくださる書店さんには、いつものように営業に行った。しかし、それほどたくさんの注文はいただけなかった。何か特別の手をうたないとこれは著者に申し訳ない。お忙しいのに書き下ろしてくださったのである。櫻井秀勲さんは超売れっ子。サンマーク出版や三笠書房の常連著者で、「運命は35歳で決まる!」などは、小社の刷り部数とはヒトケタ違うのだ。このままでは駄目だ。いつもいつも営業では悩むが今回もまた苦戦の巻。夢の中でうなされて、この本に詳しく説明されている「文章十則」を唱えていた。

<1、やさしく書け 2、長さに気をつけよ 3、動きから始めよ 4、生活観を出せ 5、色彩感を出せ 6、胸から下に打ち込め 7、大事なところは繰り返せ 8、肉体感を出せ 9、一人の読者に向かって書け 10、説教調はやめよ>

さあ、これができれば、今日から文章の達人!ついでに、「営業の十則」も書いてほしかったなあ。そして営業の達人になりたい。


斎藤美奈子さんとの雑談から生まれた『趣味は読書。』(斎藤美奈子著、平凡社)インタビュー

「カツオのタタキがすごくおいしいお店があってね、これは絶対に一度は食べておいたほうがいいよ」、と文芸評論家の斎藤美奈子さんに言われて、さっそく「ねぼけ」に二人で出かけた。ほんと、おどろきのうまさ! そこで最近話題の本のはなしなぞ、ひとしきり。「水村美苗の『本格小説』はね、176ページくらいまですっとばして、そこから読むといいよ。そして最後まで読んだら、最初にもどって読むの。これって正しい読み方よ、國岡さんなら絶対にはまるから」。斎藤美奈子さんにそう言われると、読まずば女がすたる・・・。ってな会話から、『趣味は読者』のインタビューの話が生まれ、さっそくオンライン書店bk1に交渉。OKをいただいて、速攻で読み、インタビュー。bk1でも掲載した下さった。たのしい裏話がもりだくさん。どうぞ、読んでみてください。


             <今度の相手は天下無敵のベストセラーですからね。>

斎藤美奈子さんが、読書探偵業を開業(?)し、またまたやってくれました。前の『文章読本さん江』『文壇アイドル論』も過激でしたが、もっと過激な書評集『趣味は読書。』(平凡社、2003年1月刊)が出ました。書名は「趣味は読書ですのよ! オホホホホ」ってな感じなのに、読むとこれが超激辛。そのくせに「お笑い本か、これは」と驚くほどの面白さ。ベストセラーの解読をここまでの芸で読ませるとは……。そこでさっそくインタビューに。

――「つかみはオッケー」だと思っているんですってば!――

Q1(國岡).タイトルから伺いたいのですが、『趣味は読書。』という書名から想像したも のと中味とがあまりにも違っていて、のけぞりました(笑)。これはお笑い本に近 い。ずっと笑いっぱなしでした。タイトルで損していません?

斎藤  連載中は「百万人の読書」というタイトルだったんです。100万部売れている本の 書評という意味で。このまま書名にする案もあったのですが、それだと過不足なさす ぎて、インパクトに欠ける。で、いろいろ考えた結果、ちょっとひねってこうなりま した。「どうせ斎藤の本だから、まともな書評集のわけがない」と邪推してくださる だろう確信犯的な読者のほかに、「ん? 趣味は読書って私のことかしら」と思って 手に取ってくださる新しいお客さんもいるんじゃないかと。これでも一応「読者層の 拡大」をねらったのです(笑)。

Q2.冒頭の「本、ないしは読書する人について」を読めばどうして、この書名にな ったのかが、わかる仕掛けですが、それにしても「文章読本さん江」に引き続き過激 な本ですね。  

斎藤 そうですか? でも、このくらいのことって、だれもがふだん感じていたり、友達 同士でしゃべっているような内容じゃないかと思うんですよ。書くか書かないかだけ の話で。もしも過激に見えるとしたら、それはほかの書評がお行儀よすぎるか、署名 入りでの批判が少なすぎるせいです。ただ、この本に関していえば、わかったふりし て評論家ぶるのはやめようと思った。特に今度の相手は天下無敵のベストセラーです からね。「なぜ売れたか」の客観的な分析だけなら、マーケティングのプロに任せた ほうがいいわけで、一読者としての主観も多めに入れた。当たって砕けろの特高精 神。そのぶん多少、過激に見えるのかもしれません。

Q3. この本はもともとは平凡社の小冊子『月刊百科』に3年間にわたって連載さ れたものだそうですが、「インテリ」「教養人」が読者のこの冊子の連載時の評判は いかがでしたか?  

斎藤 取り上げている本を、『月刊百科』の読者はほとんど誰も読んでいなかったんじゃ ないかと思います(笑)。でも、そうですね、回にもよりますけど、評判はそんなに 悪くなかったかな。「よくぞ言ってくれた」とか。でも、そう言ってる人も、元の本 は読んでないんですよ(笑)。いや、もともと、教養人のみなさまは誰も読まないベ ストセラーを私が代わりに読みましょう、という趣旨ではじめた連載なので、読んで なくても全然かまわないんですけれど。

Q4.タイトルに関して、しつこく聞いてしまいますが、4章の『話を聞かない男、 地図が読めない女』(A・ピーズ+B・イーズ著、主婦の友社)のところで、 <小憎らしい表題ですよね。「そういえば、うちのダンナも全然人の話を聞かないわ ね」「そうそう、うちのカミサンも道路地図が全然読めないもんな」と思う人はきっ と少なくないだろう。その時点ですでに「つかみはオッケー」である。> と言及されていますが、斎藤さんはご自分の本には「つかみはオッケー」的な書名は つけないのですか?  

斎藤 だから、本人はこれでも「つかみはオッケー」だと思っているんですってば (笑)。ただ、ベストセラーはどれもタイトルが上手い。それには感心しました。看 板に偽りありっていうのも含めて。それにならえば、この本も『ベストセラーを読ま ない男、ベストセラーしか読まない女』とか『本を読む人は大河の一滴』とか『読書 の地図はどこへ消えた?』とか『だから、あなたも読みぬいて』とかにすればよかっ たのかもしれませんけど(笑)、そんな小手先の操作をしたからって、この本が何十 万部も売れると思います? 何事も分相応ってことがある。土俵の大きさがもともと 違うんだから、私は地味に、謙虚に、このくらい引いたタイトルでちょうどいいので す。

Q5.「ベストセラーなのに、読んでいる人が周りにほとんどいないのはなぜか?  今まで誰もが気づきながら口にしなかった出版界最大の謎に、気鋭の文芸評論家が挑 む!」と裏表紙の帯の惹句にありますが、たとえば相田みつおさんなど、売れまくっ ているのになぜか、だれも書評をしない、という不思議な現象がありました。この不 思議現象にも今回はサラリとメスを入れていますね?  

斎藤 大量に売れる本と、大量に書評が出る本とは別なんですね。換言すると、それは年 に何冊かしか本を読まない「ふつうの生活者」に受ける本と、月に何十冊も本を読み まくる「マニアックな読書家」が好む本は違うってことでもある。書評を書いている ような人は、世の中全体から見ればごくごく少数派、変人の集団なわけですよ (笑)。ところが、本に近いところで生活していると、自分たちは少数派だという意 識が希薄になる。それで「くだらない本ばっかり売れて」「世の中バカばっかり」と 怒ることになるんです。でも自戒も込めていうと、それはものすごく傲慢な態度かも しれない。

Q6.冒頭の「本、ないしは読書する人について」で、実用書までふくめて習慣的に 本を読む人は人口の1割強。そしてベストセラーを読む読者は「善良な読者」、つま り「趣味は読書です」と臆せず自己紹介する人(善良な読者、健全な市民)である、 と推理しておられますが、さすが読書探偵。この謎がよくとけましたね?

斎藤 いろんな調査や統計を見ていると、本を読む人って、そんなに多くないんじゃない かという事実に、いやでも突き当たる。100万部って、出版界では超弩級のヒットで すけど、テレビの視聴率に直したら、ほんの数パーセントにすぎないとかね。マニア ックな読書家は少数派だと言ったけど、それを言うなら、ベストセラーを読んでる人 だって少数派なわけですよ。それで、よーく考えてみると、「趣味は読書です」な人 たちが、ああ、いるよなあ……って。

――「ものすごく売れる本はゆるい、明るい、衛生無害」――

Q7.全5章で41冊の本を紹介していますが、「邪悪な読者」の代表・斎藤美奈子 さんが褒めている本は1冊もないですね(笑)。特に『倚りかからず』、『冷静と情 熱のあいだ』、『アー・ユー・ハッピー?』『蜜の味』などなど、切りまくり痛快で したが、ベストセラー作家からは恨まれそうで怖いな。確実に彼らを敵にまわしてし まいましたし、ベストセラーを出した出版社のあざとい手口も見えてきますが。

斎藤 そりゃま恨まれるでしょうけど、どうせもう斎藤は敵をつくりまくりなんで、その へんは仕方がないと観念してます。でも、「薦めている本は一冊もない」と言われる と、まるで私が極悪非道な人非人みたいじゃないですか(笑)。だって、あっちはベ ストセラーなんだもん。私が薦めようが薦めまいが、敵はとっくに「勝ち組」なんで すよ。売れたもん勝ちなの、本は。ましてベストセラーの出版社が「あざとい」なん て夢にも思っていません。あっぱれ、ですよ。逆に言うと、売れてる本はそれだけで 偉いんだから、たまに水をかけられるくらいは覚悟してもらわないと。そうそういい 思いばかり、させてなるものか(笑)。『趣味読(シュミドク)』の隠し味は、敗者 の屈折と自虐だと思ってください。

Q8.1章で「古老が語るありがたい人生訓」、2章で「寂しいお父さんに効く癒し 本」、3章で「タレント告白本」、4章で「古い素材もラベルを換えれば・・・」、 5章で「大人の本は中学生むけにつくるとちょうどいい」、そしていよいよ最終章の 6章で結論がでました。「ものすごく売れる本はゆるい、明るい、衛生無害」。なん だか、最後まで読んでがっくりきました。「さみしいなあ、日本のベストセラーは」 と。斎藤さんの感想は?  

斎藤 まあ、こんなものでしょう。めちゃくちゃ言ってるみたいだけれど、「ゆるい、明 るい、衛生無害」は結論ではないし、必ずしも悪口でもないんですよ。日本の読者は 非常に健全だとも、私は思っているのです。読むだけでヘドが出そうな悪趣味な本、 劣情を刺激するような露悪的な本は、いかにも売れそうだけど、けっしてビッグヒッ トにはならない。明るくて、前向きで、健康的で、お勉強にもなりそうで、毒っ気の ない本が、結局は売れるのです。ただ、そういうのにコロッと行く人は、本の裏まで は読まないから、甘言にも乗せられやすい。メディア社会で生きていくには、それだ とちょっと危ないでしょ。世論が一方向にどっと流れるのも恐い。だから情報を批判 的に見る邪悪な目も必要だよ、と私は言いたいだけ。

Q9.この本ではどの本が何部売れたか、数字をすべて明らかにしていますが、これ は秘密をあばく快感を味わったのでは?

斎藤 いえいえ。そんなに深い意味はありません。ベストセラーの基準になるデータに は、取次や書店が発表する売り上げベスト10なんかがありますが、部数まではあまり 知りませんよね。でも、出版社に問い合わせれば、公称ですけど、たいていちゃんと 教えてくれる。企業秘密っていうほど大層なものではない。100万部の本なのか、 500万部の本なのか、それとも10万部の本なのかを比較するために、今回は数字を出 しましたけど、部数ってのもじつは曖昧なところが多くてねえ……。だから、数字は あくまでも目安です。

Q10.ハードカバーで1429円はずいぶんお買い得な定価ですが、斎藤さんのこ の本の初版部数ももし差し支えなければ教えて下さい。すぐ増刷になったそうです が、その部数も。当代一流の売れっ子文芸評論家の初版部数というのは興味津々です が、やっぱり秘密でしょうか。

斎藤 えーっと、初版が12000部。その後2回増刷がかかって、いま23000部で す。『趣味読』で取り上げた本に比べたら1桁も2桁も下ですが、これは平凡社にと っても私にとっても破格の数字です。じつは、あとがきに「ベストセラーの世界では 千の単位は誤差の範囲」って書いたら、私の周囲では「誤差の範囲」が流行語になっ てしまった。しかし、もうこれで、われわれも誤差の範囲ではないと(笑)。破格の 数字ったってこのくらいの規模。かわいいもんでしょ。

Q11.最後に、この本のPRをどうぞ。  

斎藤 1999年の夏から2002年の秋までに発売された、41冊のベストセラーを批評した本で す。たぶん、中身は読んでいなくても、書名だけはご存じの本が多いはずです。ベス トセラーって、なぜだか拒絶したくなるところがないですか? しかし、読めば読ん だで、当然ながらいろいろ感じる。そのへんを、わりあい率直に書きました。去年出 た『文章読本さん江』が長編評論、『文壇アイドル論』が連作の評論だとしたら、 『趣味読』は短編集に近いので、気楽に読んでもらえると思います。

 

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