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紡木たく◆マイ ガーデナー(MY GARDENER)
 
著者 :
紡木たく
サイズ :
A5判 190p
定価 :
1500円(税別)
ISBN :
978-4-434-10674-3 
出版年 : 2007.12.7
   
内 容:16歳になろうとするさなは、自分が誰と生きていいのかわからない。
母は再婚し、新しい家族ができた。妹は愛おしい存在。それなのに…。
ごく普通の日常の中の、うもれそうな少女の前に、一人の人が歩いていた。

『ホットロード』の紡木たくが“ほんものの愛とは何か?”をテーマに描いた書き下ろし作品。

紡木たく>1964年神奈川県横浜市生まれ。1982年、17歳の時、別冊マーガレット「待ち人」でデビュー。『ホットロード』は少女漫画に新しい世界を拓き、読者から圧倒的な支持を受けた。著書に『ホットロード』『瞬きもせず』『やさしい手を、もっている』『小さな祈り』『かなしみのまち』『机をステージに』など多数。

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朝日新聞夕刊コラム「コミック★ジャック」に取り上げられました(08年1月23日)

自分と風景だけ 藤本由香里

紡木たく、12年ぶりの新作である。書き下し単行本『マイガ―デナ―』。
読み始めたとたん、「えっ、これはマンガなの?」と思う。
まず、コマが割られておらず、吹き出しもない。あるのは、ほぼ横書きで連ねられる主人公の少女・さなのモノロ―グと、「」で括られたセリフのやりとり。その間に強弱をつけて「挿し挟まれる」と言っていい絵。つまり、コマが全体に溶けてその間に言葉が浮かんでいるような少女マンガ特有の心情描写、それだけで一冊通したらこうなるだろうか、という作品なのだ。

だがそのぶん、読者はさなの心情にじか直にふれることができる。母子家庭に育ち、母親が再婚し、父もいい人で、妹にも愛情を感じているのに馴染むことができないさな。そんなさなの心に届くのは、祖父が話してくれたぶどうの木の逸話とクラスメ―トの行将、そして車イスの子犬。

かつて私は、紡木の作品は深海魚の見ている世界のようだと思ったことがあるが、この作品では世界はもっと遠く、自分と風景だけが向き合い、その間に人々の記憶が切れ切れに浮かぶだけだ。しかしだからこそ、ライターの横井周子氏も指摘するように、最後に「お父さん」というセリフが吹き出しで書かれた時、私たちはさなが初めて外界と対峙したような感覚を抱く。

たぶんこれは、誰が読んでも面白いというマンガではないかもしれない。だが、この作品を切実に必要としている人が確実にいるのだ。 (評論家)

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北海道新聞(08年2月8日)、夕刊コラム「雑賀喜由の眼」(コミック批評)に取り上げられました。

紡木たく 変わらぬ訴求力 雑賀喜由
紡木(つむぎ)たく。主に一九八〇年代に「別冊マーガレット」で活躍した少女漫画家です。代表作は「ホットロード」「瞬きもせず」など。思春期の少年少女が抱える悩み、苦しみ、恋愛や家族の問題などを真摯に描いて、圧倒的な共感と支持を得ていました。しかし、一九九五年以降、新作の発表は途切れ、実質的な休筆期間が続いていました。

その紡木たくの新作が、昨年末、なんと十二年ぶりに発表されました。しかも描き下ろし単行本という形で。タイトルは「マイ ガーデナー」。版元は「編(あむ)書房」という漫画関連ではなじみの薄い出版社。同社ホームページによると、執筆依頼から三年の年月をかけて刊行を迎えたとのことで、編集者の熱意が生んだ喜ばしいニュースです。

気になる内容は・・・自分のいるべき場所をまだ見つけていない十六歳の少女の物語。家族の問題、同級生の少年への思い。悩み、苦しみ、少女が救いを見いだしていくまでが描かれます。
フキダシを使わずに、横書きでモノローグやセリフが羅列されるスタイル。漫画というよりは絵本やケータイ小説の感覚に近いものになっています。しかし読んでいると形式のことは気にならなくなっていました。作者が、今、悩み、苦しんでいる人たちに向けて何かを伝えたくて作品を描いた、その思いが確かな手応えを持って伝わってきたからです。

「伝えたいことがあるから作品を描く」。そのシンプルな強さ、美しさを久しぶりに実感できた感動がありました。十二年の沈黙を経ても、紡木たくの作品のメッセージ性は変わっていませんでした。今の十代のみなさんに、ぜひ出合っていただきたい一冊です。(漫画コラムニスト)

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2008年4月10日発売の『クイック・ジャパン』(太田出版)に取り上げられました。

ピーナツバターしか冷蔵庫にない 北沢夏音
第5回 April,’08

“My Gerdener is you”

「紡木たくの新作が出たの、知ってます? 一二年振りに!」
 二月の初め、深夜の打ち合わせ中に聞いた報せに絶句した。一〇日ほど前、朝日新聞の夕刊に載った書評を見て知ったのだ、と教えてくれた知人は言う。書き下ろしの単行本、しかもデビュー以来の版元・集英社ではなく、マンガとはあまり縁のなさそうな、耳慣れない出版社から、突然刊行されたらしい、と。
ハルヤマになりたかった綾小路翔のように、『ホットロード』が原風景とはいえない(紡木たくに、氣志團が現れたときどう思ったか訊いてみたい)ぼくにも、それは事件だった。
約二〇年前、ほんの一瞬、彼女とすれ違ったのだ。
     *
八七年、集英社に新卒で入社、別冊マーガレット編集部で二ヵ月間の新人研修を受けた。マンガの編集を志望する気は少しもなかったのに、大島弓子、山岸涼子などをひと通り齧った高校時代以来、しばらくごぶさただった少女マンガは新鮮に感じられた。

隣席の加藤潤という先輩が、紡木たくの担当だった。「彼は文芸の世界に行っても充分務まる人だよ」という編集長の評価に違わぬ鋭い感性の持ち主で、さりげなくいろんなことを教えてくれた。そのときコミックスになっていた紡木たくの全作品を読み、「あの夏が海にいる」「机をステージに」などイメージを喚起させる言語感覚、出身地・神奈川に根ざした風土性、言葉にならない思いをすくい取るやさしさに強く惹かれた。

八六年一月号から連載が始まった『ホットロード』が、文字通り一世を風靡して八七年五月号で完結、九月号から次作『瞬きもせず』の連載が始まろうとする時だった。この二作ほどパーフェクトに完結した同時代のマンガを、ぼくは知らない。同世代でこんなにもリアルな表現に挑むほんものの作家が、今、少女マンガの世界にいるのなら、マンガの編集とは素晴らしく価値ある仕事ではないか。もしも別マに配属されたら、いつかこの人を担当したいと心から願った。コミックスの売上が公称七〇〇万部に達する大ヒットとなった『ホットロード』は、これまで誰も描こうとしなかった“ヤンキー”、“族”と蔑称される地方在住の少年少女の心の襞を、このうえもなく繊細なネームと透きとおるような絵柄で描ききっていた。純粋少女マンガの本流と自他共に認める別マに載ったこと自体が革命だった。

『ホットロード』の映画化、ドラマ化、アニメ化などの申し込みが編集部に殺到、連日のようにかかってくる電話の応対と、すべてのオファーを断るのが、担当の日課のように見えた。連載中から一切の取材をシャットアウトした所為で、毎号のように特集を組んで『ホットロード』を追いかけていた他社の少女雑誌(現在は角川春樹事務所、当時は飛鳥新社から発行されていたポップティーン)から、「集英社はマンガ家の囲い込みをやめろ」「みんなの力で『ホットロード』を移籍させよう」と誌面で猛烈なキャンペーンを張られたこともあった。

その特集を手がけたのが、本誌創刊編集長・赤田祐一氏だと、本人の口から聞いた。赤田氏がまだ入社三年目で読者ページを担当中、ある日突然、投稿されるイラストの絵柄がガラッと一変したことに気づいて、調べてみると、紡木たくというマンガ家の影響であることが判り、一度特集したらすごい反響があった。取材を申し込むと書面にしてほしいと言われ、FAXで企画書を送ったがナシのつぶてで、図版を「無断」引用して特集を組んだら集英社から内容証明が届き、それに激怒した発行人から逆襲せよと命じられ、四ページほどの記事にしたという。別マの作者近況欄に「私のことで争うのはやめてほしい…」というコメントが出て、お開きとなった。あらゆるオファーを断ったのは編集部の方針というより、作者の意向であると聞いた。インタヴューも、紡木作品の映像化も、これまで一度も実現していない。

作品の中に全てを込めて、あとは読者に委ねたいという、作者の思いの反映だろう。
研修のさなか、東京ディズニーランドにて別マ主催のマンガ家慰労会が開かれ、ぼくも同行した。そのとき一つの真理を発見した。作者本人と作品の主人公はどこか似ている。ルックスも雰囲気もファッションも、一目で「ああ、やっぱり」と納得してしまうのだ。「あれが紡木さん」という声に振り向くと、くらもちふさこや故人となった多田かおるなど、先輩たちから少し離れて、『ホットロード』の和希の面影がある、レモン色のワンピースを着た可愛らしい女の子が、ニコニコっと笑いながら佇んでいた。今は遠くかすんでしまった幻のような記憶――。

研修が終わり、配属されたのは別マではなく、同じマンガでも少年誌だった。そこから先は別の物語だ。心を残して別マを去ってから、気がつけば二〇年の歳月が流れ、九五年を最後に紡木たくの新作発表が途絶えたことも知らず、ぼくも会社を辞めてフリーになっていた。

打ち合わせの翌日、六本木の青山ブックセンターで、紡木たくの新作が平積みになっているのを見つけた。A5判・一九二ページの簡素な造本、うつむきかげんの女の子が独りで立っているラフスケッチを白地に配したシンプルな表紙。ピンク色の帯には《たすけたかったんだ ホットロードの紡木たくが描くほんものの愛》という一文、〇七年一二月の発売から、ひと月で三刷に達している。タイトルは『マイ ガーデナー』。

中を確かめて意表をつかれた。コマがほとんど割られておらず、一六歳の主人公さなのモノローグと会話が、全て横書きの明朝体と書き文字で流れて行く。その背後に、いわさきちひろを思わせる淡いタッチの、挿絵にもマンガの断片にも見える、やわらかい絵がふわっと浮かぶ。絵本とコミックとケータイ小説を合わせたような、見たことのない手法。一二年の休筆を経て、紡木たくはまったく新しい表現に到達したのだ。
その晩、不覚にも読み終えるまで涙がとまらなかった。最良のジュヴナイルだと感じた。この作家の本質は何も変わっていない。自分ではどうしようもない寂しさを抱え、家族にも馴染めず孤独に苦しむ子どもたちに送る、「あなたは愛されている」「あなたを愛してくれる人が必ずいる」というメッセージ。サリンジャーを超える“キャッチャー”がいるとしたら、それは紡木たくだと思った。彼女はサリンジャーのように筆を折ったままではなく、新作を発表してくれたのだ。

 この本の版元・編書房は、代表取締役社長の國岡克知子さんが編集から製作まで一人で行う九八年創業の若い出版社。マンガに関しては素人同然の國岡さんのほうから紡木たくに書き下ろしを依頼して快諾を得、三年も粘って出版に漕ぎ着けたものだ。では、なぜ集英社ではなく編書房にそれが可能だったのか。そこには「秘密がある」という。その秘密が何なのか、國岡さんは黙して語らないが、この本を読めば、謎は解ける。『マイ ガーデナー』の主題は、物語の最初に、明確に提示されている。「どうしても描いていただきたいテーマがあって」という國岡さんの言葉を手がかりに推理するなら、もしかするとテーマそのものが大手出版社の規制の対象となりうる。そのことと「一二年間の休筆」は、関係ないかもしれないけれど。「なぜ今、紡木たくが?――紡木たくが、静かにそっと描きたくなった小さな物語」

ファンから編書房宛てに寄せられた質問に対して、作者が用意した“答え”の中にある「静かにそっと」という言葉だけでいい。國岡さんに感謝したい。
この「小さな物語」は、現時点での最後の雑誌連載作品『小さな祈り』(九三年)と同じく、家族の問題を扱っている。『ホットロード』以来のライフワークである「家族の崩壊と再生の物語」に“答え”を出した作品とも言える。
キーワードは「無償の愛」。
この本を読みながら、愛されることが当たり前で、愛することさえよくわかっていなかったぼくに、全てをくれていなくなったひとのことを想った。ほんものの愛――それは無償の愛にしかなり得ないだろう。

 

 

 

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