内 容:16歳になろうとするさなは、自分が誰と生きていいのかわからない。
母は再婚し、新しい家族ができた。妹は愛おしい存在。それなのに…。
ごく普通の日常の中の、うもれそうな少女の前に、一人の人が歩いていた。
『ホットロード』の紡木たくが“ほんものの愛とは何か?”をテーマに描いた書き下ろし作品。
<紡木たく>1964年神奈川県横浜市生まれ。1982年、17歳の時、別冊マーガレット「待ち人」でデビュー。『ホットロード』は少女漫画に新しい世界を拓き、読者から圧倒的な支持を受けた。著書に『ホットロード』『瞬きもせず』『やさしい手を、もっている』『小さな祈り』『かなしみのまち』『机をステージに』など多数。
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朝日新聞夕刊コラム「コミック★ジャック」に取り上げられました(08年1月23日)
自分と風景だけ 藤本由香里
紡木たく、12年ぶりの新作である。書き下し単行本『マイガ―デナ―』。
読み始めたとたん、「えっ、これはマンガなの?」と思う。
まず、コマが割られておらず、吹き出しもない。あるのは、ほぼ横書きで連ねられる主人公の少女・さなのモノロ―グと、「」で括られたセリフのやりとり。その間に強弱をつけて「挿し挟まれる」と言っていい絵。つまり、コマが全体に溶けてその間に言葉が浮かんでいるような少女マンガ特有の心情描写、それだけで一冊通したらこうなるだろうか、という作品なのだ。
だがそのぶん、読者はさなの心情にじか直にふれることができる。母子家庭に育ち、母親が再婚し、父もいい人で、妹にも愛情を感じているのに馴染むことができないさな。そんなさなの心に届くのは、祖父が話してくれたぶどうの木の逸話とクラスメ―トの行将、そして車イスの子犬。
かつて私は、紡木の作品は深海魚の見ている世界のようだと思ったことがあるが、この作品では世界はもっと遠く、自分と風景だけが向き合い、その間に人々の記憶が切れ切れに浮かぶだけだ。しかしだからこそ、ライターの横井周子氏も指摘するように、最後に「お父さん」というセリフが吹き出しで書かれた時、私たちはさなが初めて外界と対峙したような感覚を抱く。
たぶんこれは、誰が読んでも面白いというマンガではないかもしれない。だが、この作品を切実に必要としている人が確実にいるのだ。 (評論家)
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北海道新聞(08年2月8日)、夕刊コラム「雑賀喜由の眼」(コミック批評)に取り上げられました。
紡木たく 変わらぬ訴求力 雑賀喜由
紡木(つむぎ)たく。主に一九八〇年代に「別冊マーガレット」で活躍した少女漫画家です。代表作は「ホットロード」「瞬きもせず」など。思春期の少年少女が抱える悩み、苦しみ、恋愛や家族の問題などを真摯に描いて、圧倒的な共感と支持を得ていました。しかし、一九九五年以降、新作の発表は途切れ、実質的な休筆期間が続いていました。
その紡木たくの新作が、昨年末、なんと十二年ぶりに発表されました。しかも描き下ろし単行本という形で。タイトルは「マイ ガーデナー」。版元は「編(あむ)書房」という漫画関連ではなじみの薄い出版社。同社ホームページによると、執筆依頼から三年の年月をかけて刊行を迎えたとのことで、編集者の熱意が生んだ喜ばしいニュースです。
気になる内容は・・・自分のいるべき場所をまだ見つけていない十六歳の少女の物語。家族の問題、同級生の少年への思い。悩み、苦しみ、少女が救いを見いだしていくまでが描かれます。
フキダシを使わずに、横書きでモノローグやセリフが羅列されるスタイル。漫画というよりは絵本やケータイ小説の感覚に近いものになっています。しかし読んでいると形式のことは気にならなくなっていました。作者が、今、悩み、苦しんでいる人たちに向けて何かを伝えたくて作品を描いた、その思いが確かな手応えを持って伝わってきたからです。
「伝えたいことがあるから作品を描く」。そのシンプルな強さ、美しさを久しぶりに実感できた感動がありました。十二年の沈黙を経ても、紡木たくの作品のメッセージ性は変わっていませんでした。今の十代のみなさんに、ぜひ出合っていただきたい一冊です。(漫画コラムニスト)